『10 分でわかる! ⼯事保険とは、いったいどんな保険?』
記事ガイド:大森 雅裕(おおもり まさひろ)
AFP、 2級ファイナンシャル プランナー
HOKEN SALON 代表
東京海上日動の研修社員から2011年に独立、複数の保険会社を取り扱う総合保険代理店を設立。 保険のプランニングから保険金の支払いまで精通。 安くて条件の良い商品選びのコツをアドバイス。
【得意分野】工事保険、賠償保険、自動車保険、火災保険、生命保険
工事保険は一般の保険に比べ少し複雑でとっつきにくいかもしれませんが、なにも難しいことはありません。基礎的なことさえ押さえておけば意外と簡単です。 本記事では『保険のこと、難しくてサッパリわからない』と苦手意識を持っている方のために、工事保険の基礎的なことを初めての方にも理解できようにわかりやすく解説していきたいと思います。
2020年11月30日公開
1. 工事保険とは?
工事保険とは、簡単に言うと、
「工事現場で発生するさまざまな事故(リスク)に備えるために任意で加入する保険の総称」です。
保険金が支払われる代表的な事故例としては以下のようなものがあります。
工事現場で発生するさまざまな事故例
-
労災事故
建設作業員が屋根から落下し、後遺障害を負った
後遺障害保険金 5,000万円 -
工事中の事故
クレーンで釣り上げていた鉄板が落下し通⾏⼈がけがをした。
損害賠償金 2,000万円 -
支給材の事故
発注者から⽀給された備え付け⽤のエアコンを誤って壊した
損害賠償金 30万円 -
工事物の事故
建築中のビルが台⾵で損害を受けた。
損害賠償金 800万円
-
工事遅延損害
警察の調査等で工期が延びた。
損害賠償金 400万円 -
地盤崩壊事故
掘削工事中に土砂崩れがおき周辺建物が損壊。
損害賠償金 1,600万円 -
リース機械の事故
作業場内で工事のために借用したクレーン車を誤って壊した。
損害賠償金 60万円 -
生産物事故
電気工事の配線ミスにより漏電し火災が発生、隣家を燃やした。
損害賠償金 7,700万円
このように、工事に関する事故はさまざまです。
これらの事故をカバーするために、現在民間の保険会社から色々なタイプの商品が発売されています。
従来はスポット(1工事ごと)で、リスクごとに個別に加入するタイプが多かったですが、最近はすべての工事を年間包括して加入するタイプの保険が主流となっています。
2. 工事保険の目的
建設業は他の業種に比べても危険の高い事故が多い業種
建設工事現場は、さまざまな危険が伴います。
高所から作業員が落下し死亡事故が発生するリスクをはじめ、重機や危険な道具を扱う作業が多いこともあり第三者にケガを負わしたり第三者のモノを壊したりといった重大な事故につながることも多いです。
厚生労働省の統計によると令和元年の建設作業員の労災事故の死傷者は15,183人、死亡者は269人となっています。このことからも工事には事故の危険が伴うことが分かります。これらは作業員の労災事故だけの数字ですが、さらには第三者への賠償事故を含めるとかなりの事故件数になり、建設工事のリスクの高さが伺えます。もし従業員や下請けが事故を起こしてしまい、第三者が死傷したり第三者のものを破損してしまったりしたならば、予期せぬ多額の賠償を求められる場合があります。
このような場合に備えて、工事業者は工事保険に加入しておく必要があるといえるでしょう。
3. 工事保険の種類
3-1. 大きく分けると、3種類に分けられる。
工事保険は大きく分けると、「賠償責任保険」・「任意労災保険」・「資材や工事対象物の保険」の3つに分けられます。それぞれ保険の対象とするものが分けられています。以下に簡単に解説します。
工事保険の種類
賠償責任保険
【保険の対象】
第三者にケガを負わす
第三者のモノを壊す
任意労災保険
【保険の対象】
従業員や下請け・アルバイト
がケガをする
現場の「もの」の事故事例
【保険の対象】
建築中の建物が壊れる
現場の資材が盗まれる
3-2. 工事保険ごとのかんたん解説
上記の保険について、以下にそれぞれ解説していきます。
はじめての方にも理解していただけるようできるだけ簡単に解説しています。
詳しい解説が見たい方は詳細ページをご覧ください。
【任意労災保険とは】
任意労災保険とは、「工事現場で作業員が事故でケガをした場合や死亡した場合」に備えるための保険です。
一般的に「労災保険」というと、従業員が工事中にケガをしたときに給付が受けられる政府が運営している強制加入保険のことを言いますが、この「任意労災保険」とは、強制加入の政府労災保険とは別に任意で上乗せ補償として加入する労災保険のことを言います。
これらの事故に備える保険商品としては「任意労災保険」、「業務災害補償保険」、「労働災害総合保険」などが該当します。
補償の内容としては、「死亡補償」、「後遺障害」、「入院補償」、「通院補償」、「休業補償」、「使用者賠償」などがあります。
死亡補償
後遺障害
入院補償
通院補償
休業補償
使用者賠償
【工事の賠償責任保険とは】
工事に関する賠償責任保険とは、第三者である他人にケガを負わした場合、あるいは他人の物を壊したときに発生する、治療費、賃金補償、慰謝料、修理費などの賠償費用をカバーする保険のことです。要するに、「第三者に賠償金を払う保険」というイメージですね。
被害者の治療費
賃金補償
慰謝料
修理費
お見舞金
これらの事故に備える保険商品としては、工事中の賠償事故を補償するものを「請負業者賠償保険」といい、施工後(引き渡し後)の賠償事故を補償するものを「生産物賠償責任保険」と言います。また受託物を壊してしまった時の賠償補償は「受託者賠償保険」といった形で、それぞれ商品が分かれていますが、最近では、一まとめになった包括商品での加入が一般的になっています。
【資材や工事対象物の保険とは】
資材や工事対象物の保険とは、建築中の建物・設備・道路などの目的物や建築資材・仮設物などが事故で壊れた場合や盗まれた場合などに補償が受けられる保険です。
補償対象となるものは「本工事の目的物」、「仮工事の目的物」、「工事用仮設物」、「工事用仮設建物」、「工事用仮設建物内の什器・備品」、「工事用材料」、「工事用仮設材」です。
これらの事故に備える保険商品としては「建設工事保険、土木工事保険、組立保険」などがあります。
実際、「建設工事保険、土木工事保険、組立保険」のどれに加入するかは工事の種類によって変わります。
最近は、上記のような単独商品で加入するタイプではなく、賠償保険などとセットで加入する総合保険タイプが主流となっています。
ここで注意しておきたいポイントがあります。
保険会社で工事保険というと、建築中の目的物や建築資材が被害にあった時の「建築工事保険、組立工事保険、土木工事保険」の部分だけを指すことがあります。
ですが、世間一般での「工事保険」はもっと広い意味での「建設業者が工事中の事故に備えるために加入する色々な保険の総称」として用いられていることも多々あります。
ですから、元請けなどから工事保険に入っておくようにと言われた場合、どの部分のことを指しているのか保険の目的をまずはきっちり確認する必要があります。
一般的に元請けや役所から加入を求められるのは労災保険と賠償責任保険であって、保険会社が言う工事保険(建築工事保険、組立工事保険、土木工事保険)ではありません。
このあたりの話は少しややこしいですが、非常に大切なことなのでしっかり押さえておきましょう。
4. 実際どんな事故が対象になるのか?具体例を紹介
工事保険の支払い対象となる事例はたくさんありますが、その代表的な一例をご紹介します。
賠償責任保険の事故事例
(第三者への対人対物リスク)
任意労災保険の事故事例
(作業員が死傷するリスク)
現場の「もの」の事故事例
(建築中の建物・足場・資材など)
4-1. 賠償責任保険の事故事例
4-1-1. 足場解体中に鉄板が落下し通行人にケガを負わせた
鉄板が落下し、通行人が重体
ビル建設現場から作業員が落下し重体になったケースです。これは、保険上対人賠償事故という扱いになり、賠償額は被害者一人当たり数千万円~1億円を超えることもあります。さらには複数名被害者がいた場合はかなり高額な賠償金が必要になります。
4-1-2. 作業中のクレーンが横転し、隣の民家を損壊させた
クレーンが倒壊、隣家を破損
作業中のクレーンが横転し、隣の民家を損壊させた。これは、保険上対人賠償事故という扱いになります。
4-1-3. ガス管修理中にガス爆発が起き、近隣建物被害180棟超
ガス管修理中にガス爆発
4-1-4. 施工後ミスが判明、配管から水漏れ、階下のテナントが水浸し
配管から水漏れ
施工ミスで配管から水漏れ、階下のテナントが水浸しで休業補償を請求された。
4-1-5. 元請けから設置を依頼された蓄電池(支給資材)を破損させてしまった
支給材料を壊してしまった
4-1-6. 配線を誤ってショートさせてしまい、建物の設備・機器を壊してしまった
配線を誤ってショート
4-2. 任意労災保険の事故事例
4-2-1. 建設現場から作業員が落下、重体
建設現場から作業員が落下、重体
ビル建設現場から作業員が落下し重体になったケース。
4-2-2. 店舗の解体工事中に、活線を切断して感電し死亡
解体中に活線を切断して感電死
4-2-3. 従業員が過労死、遺族から損害賠償請求された
従業員が過労死、高額賠償
従業員が過労死して、遺族から高額の賠償請求された。
4-3.資材や工事対象物(モノ)の保険の事故事例
4-3-1. 建築中の建物が台風で破損した
建築中の建物が台風で破損
建築中の建物が災害で破損するケースです。また、放火されるケースも時々あります。
4-3-2. 深夜に倉庫内の資材が盗難被害にあった
深夜に倉庫内の資材が盗まれた
通信用設備据付工事の工事現場で、仮設していた倉庫が何者かによって深夜に荒らされ、地中に敷設する予定だった通信用ケーブルが盗難された。
4-3-3. 元請けから設置を依頼された蓄電池(支給資材)を破損させてしまった
支給材料を壊してしまった
5. 工事保険の種類(まとめ一覧表)
数ある工事保険をリスクごと目的ごとに分類しています。
それぞれ、保険の対象と事故例と対応商品を挙げています。
保険の対象 | 事故例 | 対応商品 | |
---|---|---|---|
労災事故に備える保険 | ■事業主 ■役員 ■従業員 ■アルバイト ■下請け |
・作業員が屋根から落下し死亡 |
●任意労災保険 ●業務災害保険 ●上乗せ労災総合保険 など |
賠償事故に備える保険 | ■他⼈のからだ ■他⼈の所有物 |
・建設資材が落下して通⾏⼈が死亡 ・資材の搬送中、駐⾞中の第三者の⾞両を傷つけた。 ・⼯事の⽋陥でガス漏れが発⽣し住⺠が中毒になった。 ・太陽光設備設置完了後、⼯事の⽋陥により⾬漏りし建物全体にカビが発⽣した。 ・看板設置後に施⼯不良により看板が落下し、歩⾏者の頭を直撃 |
●請負業者賠償保険 ●⽣産物賠償保険 ●事業活動総合保険 など |
モノが壊れた時の保険 | ■建設中の ⽬的物 (建物・道路・など) ■建築資材 ■⾜場・型枠 ■現場事務所 ■現場倉庫 ■現場宿舎 |
・建築中の住宅で⽕災が発⽣し全焼した。 ・⼤⾬の影響で⼟砂崩れが発⽣し、建設中の道路が損壊した。 ・⼯事現場内資材置場に保管していた⼯事⽤資材が盗まれた。 ・交通事故により、陸上輸送中の⼯事⽤資材が破損した。
|
●建設⼯事保険 ●組⽴保険 ●⼟⽊⼯事保険 など |
6. まとめ
いかがでしたか?
ここでは、工事保険の基本として、工事保険の種類、事故事例などについて見てきました。
ですが、ここでお話したのは工事保険のごくごく基本的な事柄に過ぎません。工事保険を検討する場合、商品、割引制度、補償内容なども含めて総合的に検討する必要があります。
中には、自分一人で工事保険を検討するのは大変そうだな・・・と思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか? もし少しでもそう思われた方はプロの助言を聞くのも一つの手段です。
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